マイクロプラスチックと聴くと、海洋汚染問題をイメージする方も多いと思いますが、マイクロプラスチックは、その存在が海洋汚染だけに留まらないことが最近の研究で明らかになっています。マイクロプラスチックと呼ばれる極小のプラスチック片は大気中にも浮遊しており、私たちの呼吸を通じて体内に取り込まれているというのです。
マイクロプラスチックの定義は?
マイクロプラスチックとは、直径が5mm未満のプラスチック片のことを指します。これらは主にプラスチック製品が物理的、化学的に分解される過程で発生し、環境中に広がっています。特に製品の劣化や洗濯時に放出される合成繊維などが主な源です。これらが自然環境に放出されると、微小サイズのために水や空気を介して広範囲に散布されます。
Brahney准教授(ユタ州立大学)は、米国西部の大気中マイクロプラスチックの濃度を測定し、その分布パターンと起源を明らかにするとともに、マイクロプラスチックの物理的特性(サイズ、形状、種類)を分析し、それが地域の環境にどのような影響を与えるかを評価する研究を発表しました。
- Journal Name: Journal of Atmospheric Sciences
- Author: Associate Professor Brahney (Utah State University)
- Title: Distribution and Impacts of Microplastics in the Atmosphere of the Western United States
Brahney准教授らの研究によると、米国西部の大気中のマイクロプラスチックの発生源は主に以下のように示されています。
- 都市部からの排出:
- 都市部は人口密度が高く、日常生活で使用されるプラスチック製品が多いため、破砕されたプラスチック片が大気中に放出されます。特に、交通や産業活動からの排出が顕著です。
- 農業活動:
- 農業活動中に使用されるプラスチック製マルチやその他の農業用資材が破壊され、マイクロプラスチックとして大気中に拡散します。これらは風に乗じて広範囲にわたり散布されることがあります。
- 道路交通からのタイヤ摩耗粒子:
- 車両のタイヤから摩耗する微小な粒子もマイクロプラスチックの重要な源です。これらはタイヤがアスファルトと接触する際に削り取られ、大気中に放出されます。
- 合成繊維の衣類からの繊維:
- 洗濯過程で合成繊維製の衣類から放出される繊維が下水を通じて環境に入り、結局は大気中にも達する可能性があります。これに加えて、衣類の着用や取り扱いから直接大気中に繊維が放出されることもあります。
日本での研究
人間の肺、血液、母乳、心臓、胎盤、糞尿などからマイクロプラスチックが見つかっています。
日本でも環境省の環境研究総合推進費を用いて「大気中マイクロプラスチックの実態解明と健康影響評価(Airborne MicroPlastic and Health Impact;通称、AMΦプロジェクト)」が実施されています。このプロジェクトは、大気中に浮遊するマイクロプラスチック(AMP)の実態とその人体への健康影響について総合的に調査・評価を行うことを目的としています。
主な調査結果
- マイクロプラスチックの濃度と分布
- 調査は、都市部、郊外、及び山間部など多様な環境を対象に行われました。結果として、都市部の大気中に最も高濃度のマイクロプラスチックが検出され、特に交通量の多い地域や工業地域が顕著でした。
- マイクロプラスチックの種類では、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)が主に見られました。
- 発生源
- 発生源の特定には、リモートセンシング技術と地上サンプリングが用いられました。その結果、タイヤの摩耗粒子、衣類からの繊維、家庭および工業廃棄物からのプラスチック片などが主な発生源であることが明らかになりました。
- 健康への影響
- 呼吸器系への影響が特に懸念されており、マイクロプラスチックの吸入はアレルギー反応や呼吸困難を引き起こす可能性が指摘されました。
- また、AMPが人体に蓄積することで、長期的な健康影響が懸念されるとともに、免疫系への影響も報告されています。
- 環境への影響
- 大気中のマイクロプラスチックは、水循環を通じて地表水や地下水にも影響を及ぼす可能性があります。これにより、水生生物への悪影響も懸念される事態となりました。
- 政策提言
- 研究結果を基に、マイクロプラスチックの排出削減に向けた政策や、公衆の健康を守るための規制強化が提言されました。これには、製品設計の見直し、リサイクル促進、消費者の意識向上が含まれます。
課題と今後の展望
- 測定技術の向上:より正確なマイクロプラスチックの測定と分析を可能にする技術の開発が求められています。
- 長期的な影響の評価:特に子どもや高齢者など、敏感な群体に対する長期的な健康影響の研究が必要です。
- 国際的な協力:マイクロプラスチック汚染は国境を越える問題であるため、国際的な取り組みと協力が必要とされます。
このAMΦプロジェクトによって、大気中マイクロプラスチック汚染が環境および人体健康に与える影響の理解が深まり、それを軽減するための具体的なステップが提示されました。今後も継続的な調査と研究が求められる重要なテーマです。
富士山頂におけるマイクロプラスチックの検出結果
AMΦプロジェクトでは、富士山頂でのマイクロプラスチック(AMP)の量を測定する研究も行われています。大気中の微小なプラスチック粒子がどの程度遠隔地にも拡散しているかを示す貴重なデータを提供しています。富士山頂という、人間の活動が比較的少ないはずの地点でのマイクロプラスチックの検出は、これらの汚染物質が大気を介して広範囲に運ばれていることを明らかにしました。
調査方法
- サンプリング地点:富士山頂(標高3776メートル)
- サンプリング期間:2021年4月から2021年9月
- 測定技術:フルード・インパクターを用いたエアロゾルの収集と、顕微鏡による粒子の識別
主な結果
- マイクロプラスチックの検出量:
- 富士山頂で収集された大気中エアロゾルのサンプルから、1リットルあたり平均2.5個のマイクロプラスチックが検出されました。
- 検出されたマイクロプラスチックは主にポリエステル(PET)、ポリエチレン(PE)、アクリルの三種類でした。
- 粒子のサイズと形状:
- 検出されたマイクロプラスチックの大部分は繊維状で、長さは20〜300マイクロメートルの範囲でした。
- これらの繊維は、衣類や漁網などから発生した可能性が高いと考えられます。
- 可能な輸送メカニズム:
- マイクロプラスチックは地表近くだけでなく、高高度でも検出されることから、これらが長距離を移動する能力を持っていることが示されました。
- 主に西からの風に乗じて、都市部や工業地帯から放出されたマイクロプラスチックが富士山頂に達している可能性があります。
影響と今後の課題
- 環境への影響:
- 高山植物や山岳地帯の生態系に対する潜在的な影響が懸念されます。特に、水源地となるこれらの地域での微小プラスチックの蓄積は、水質汚染の新たな原因となり得ます。
- 健康への影響:
- 高地でのトレッキングや登山を楽しむ人々が、知らず知らずのうちにこれらの粒子を吸入している可能性があり、長期的な健康影響が懸念されます。
- 今後の研究:
- マイクロプラスチックの具体的な健康影響に関する研究をさらに進める必要があります。
- 富士山頂以外の無人地帯や自然保護区域での同様の調査を展開し、環境全体の汚染状況を把握することが推奨されます。
この調査結果は、人里離れた場所であってもマイクロプラスチック汚染が進行している現実を示し、その全体像解明と対策の練り直しを迫るものです。
マイクロプラスチック汚染の全体像
マイクロプラスチック問題は、かつては主に海洋汚染の文脈で語られてきましたが、最近の研究により、その影響は大気、さらには遠隔地にも及んでいることが明らかになっています。米国西部の大気中、さらには富士山の頂上という人間活動の影響が少ないはずの地域までもが、マイクロプラスチックによる汚染の影響下にあることが確認されています。これらの研究結果から、マイクロプラスチックが大気を通じて広範囲に輸送されている実態が浮かび上がります。
健康への影響と環境への影響
マイクロプラスチックの吸入は特に呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性があり、長期的には免疫系への影響も懸念されています。また、これらの粒子が水循環を通じて水系に入り込むことで、水生生物に対する悪影響が懸念されると同時に、水質汚染の新たな原因ともなり得ます。富士山頂での調査結果は、自然保護区域であっても安全ではないことを示唆しており、更なる環境保護の措置を迫るものです。
政策提言と今後の課題
今後は、マイクロプラスチックの排出削減を目指した政策の策定が急務となります。具体的には、製品設計の見直し、リサイクルの促進、消費者意識の向上が求められます。また、測定技術の向上や国際的な協力を深めることで、より詳細なデータの収集と分析が可能となり、効果的な対策が打ち出せるようになるでしょう。
さらに、無人地帯や自然保護区域での同様の調査を展開し、環境全体の汚染状況を把握することも重要です。これにより、マイクロプラスチック汚染の更なる実態解明を進め、その対策を練り直すことができるでしょう。
総合的な視点からのアプローチ
AMΦプロジェクトをはじめとするこれらの研究は、マイクロプラスチック問題に対する我々の理解を深めるとともに、地球規模での環境保護活動における新たな課題を提示しています。個々の国だけでなく、国際社会全体として統一された対応を取ることが、これからの環境保護における大きな鍵となるでしょう。マイクロプラスチックによる汚染は見えにくいものの、その影響は広範囲に及ぶため、全人類共通の問題として、今後も継続的に取り組む必要があります。
著者プロフィール
- 地球となかよしオフィシャルサイトの運営事務局です。
- イベント2024年12月2日SOS!!美ら海の危機?!
沖縄の宝物サンゴ礁の今
~私たちができることを
一緒に考えよう~ - イベント2024年10月1日マイクロプラスチック調査にチャレンジ!
- Blog2024年8月12日【満員御礼】 地球となかよしファミリーキャンプ ~やんばる冒険編~
- イベント2024年6月6日【地球となかよし探究クラス】沖縄の美ら海で学ぶ未来のリーダー育成プログラム